兎祇物語

創作小説を掲載します。

2023-01-01から1年間の記事一覧

拾里

兎祇物語 紅兎 惜別編 (5)拾里岩屋谷奥深く入ると、冥府ヶ岳を背にして、一件の屋敷が建っていた。岩戸屋敷…岩屋谷に暮らす者達の中でも、完全療養を必要とする者達が暮らす所である。庭先には、様々な花の木が植えられているが、今は皆枯れている。新た…

幸福

兎祇物語 紅兎 惜別編 (4)幸福「良いところね…」菜穂は、そこに辿り着くと、辺り一帯を静かに見回しながら言った。「トモ姉ちゃんは、こーんな所に暮らしてたんだ。」平坂峠を越えて、岩屋谷(いわやたに)に入ると、そこは別世界であった。物静かな森林…

哭祠

兎祇物語 紅兎 惜別編 (3)哭祠 慰坂(なぐさみさか)の頂きには、括祠(くくりぼこら)と呼ばれる小屋がある。由来は、山中に捨てられる者と捨てる家族が、ここで最後の一夜を共にした時、今生の別れを祠の神に告げ、覚悟を決めた事に由来する。しかし…実…

慰坂

兎祇物語 紅兎 惜別編 (2)慰坂  兎喪(うさも)岬の断崖を後にして、鱶見社領(ふかみのやしろのかなめ)外れの道をまっすぐ歩いて行くと、やがて、平坂峠に繋がる慰坂(なぐさみのさか)に入った。かつて、この坂は、黄泉津坂(よもつさか)と呼ばれた…

潮騒

兎祇物語 紅兎 惜別編 (1)潮騒 潮騒… 終わりなき悲しみの音色… 果てる事なき音色… 凍てつく海の彼方に、灰色の景色が広がって行く。 何処まで見渡しても変わらぬ、激しい波の揺らめき… チラホラと降りしきる、銀色の雫が、枯れ果てた涙の代わりに、男の頬…

兎祇物語

皇国(すめらぎのくに)、離島。 隠隅島では、未だ、一つの因習が人々の営みを支配している。 そこでは、捧穂(ささげ)と呼ばれる、祭祀(まつり)が行われている。祭祀(まつり)の歴史は古く、神代に遡ると言う。 それは…